東京高等裁判所 昭和36年(ネ)2070号 判決 1963年5月16日
控訴人 稲見光
被控訴人 三重野新 外一名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人両名は連帯して控訴人に対し金三〇四万〇、六二八円とこれに対する昭和三一年八月一〇日から右支払済にいたるまでの年五分の割合による金員を支払え。被控訴人三重野は控訴人に対し金二〇七万六、七四八円とこれに対する昭和三一年八月一〇日から右支払済にいたるまでの年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、被控訴人等代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張および証拠関係は左記一、二のとおり附加訂正するほか原判決事実の部に記載されているとおりである(但し、原判決二枚目裏末行から三枚目表一行目にかけて「一、九四八、五〇〇円」とあるのは「一、九四六、五〇〇円」の誤記と認める)から、これをここに引用する。
一、控訴人の主張
控訴人は被控訴人三重野に対しては同被控訴人の更生管財人としての善管義務不履行による損害賠償として、被控訴人林に対しては同被控訴人が被控訴人三重野をして更生管財人としての義務に違背する行為をなさしめた不法行為に基く損害賠償として本件請求をするものである。訴外小名木茂の訴外田中熱機株式会社に対する債権および抵当権を小名木から控訴人へ譲渡したについての通知は、昭和三一年八月二〇日頃小名木から破産者田中熱機株式会社破産管財人に対してなされたのである。
二、証拠関係<省略>
理由
当裁判所は左記のとおり附加するほか原判決中の理由の欄に記載されているところと同一の理由によつて控訴人の本訴請求を認容しがたいものと判断するから、原判決の右の記載部分を本判決の理由としてここに引用する。
控訴人は本訴において、控訴人が昭和二八年一月三〇日更生担保権として届出た合計六一九万六、五〇〇円の債権が本件更生手続において更生担保権として確定し、その確定した更生担保権を控訴人らによつて侵害されて損害を蒙つたと主張するのであるが、控訴人の届出にかゝる右債権が更生担保権として確定しその旨更生担保権者表に記載されたものであるといえないことは引用の原判決理由に説示するとおりであるのみならず、控訴人が昭和二七年一一月一八日控訴人の田中熱機株式会社(更生手続申立会社)に対する前記六一九万六、五〇〇円の債権を当時同会社の代表取締役であつた田中善助に譲渡したことは当事者間に争いがないところであつて、控訴人は同月二一日右譲渡の意思表示を田中善助の詐欺を理由に控訴人において取消したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、かえつて成立に争のない乙第七、第八号証、同第一四、第一五号証、原審証人田中善助、島田真一、山中徳助の各証言を綜合すれば、控訴人主張のような取消の意思表示のなされなかつたことを認めるに十分である。
従つて本件更生手続につき控訴人が右六一九万六、五〇〇円の債権を届出でた昭和二八年一月三〇日および更生債権、更生担保権の調査の期日である同年二月一八日当時控訴人は実質的にも右債権を有しなかつたものであることが明らかである。
もつとも前記乙第八号証によると、控訴人は前記田中善助外二名との間の訴訟事件につき、昭和三〇年二月一六日同訴訟の係属する東京地方裁判所で裁判上の和解をなし、その和解条項の一として、田中善助は控訴人からの前記譲受債権を再び控訴人に譲渡する旨を約したことが認められるが、右の債権譲渡について債務者の承認もしくは債務者に対する通知がなされたことの主張立証のないのはともかくとして、右和解により債権譲渡が行はれたにしても、前記債権届出ないし債権調査期日当時に控訴人が右の債権を有しなかつたことに変りがないことはいうまでもない。右の次第であるから控訴人の届出債権について更生管財人が昭和二八年二月一八日の債権調査期日に異議を述べたのも、当然のところと首肯し得る。
もとより実質上債権がなくとも執行力ある債務名義または終局判決のあるいわゆる有名義債権の届出であれば、異議者が法定の期間内に訴訟手続によつて異議を主張しない限り、その届出債権が更正債権また更正担保権として確定することは否定し得ないけれども、控訴人の前記債権届出は、引用の原判決理由記載のとおり届出の内容形式等からみて、有名義債権の届出とみることは困難であり、従つてそれが有名義債権として取扱はれなかつたことも不思議ではないと考えられる。控訴人が仮りに債権届出の当時執行力ある債務名義(執行文を付した公正証書正本)を有したにしても届出に際してこのことを明らかにしない限り有名義債権の届出として取扱うべきでないものと解するを相当とする。然るに債権調査期日から約三年近くも経つてから、控訴人の届出債権が有名義債権であり、異議者において法定期間内に訴を提起しなかつたとの理由の下に、更生担保権者表の控訴人の債権確定欄に「○」とあるのを控訴人の届出債権額どおりに訂正されたのであるが、控訴人の債権届出が有名義債権の届出と認められない以上、右の訂正によつて控訴人の更生担保権が右訂正された金額どおりに確定の効力を生じたものということはできないことは原判決説示のとおりである。
なお、控訴人が当審において新たに提出、援用した証拠を斟酌しても、前記引用にかかる原判決理由の説示を動かすに足りない。
以上の次第で、控訴人の本訴請求は理由がなく棄却を免れず、これと同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。
よつて民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 谷本仙一郎 堀田繁勝 海老塚和衛)